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テニスの怪我の減らし方
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 スポーツに怪我は付き物。確かに怪我の発生をゼロにする事は、正直難しい。しかし、怪我の可能性を減らしたり、悪化を避ける事はできます。本コラムでは、怪我の減らし方や、テニス特有の怪我の傾向や対応策をまとめたいと思います。

1. 初期症状を見逃さない、軽視しない

 怪我の種類を二つに分けると、「急性」と「慢性」に区別できます。急性とは、捻挫や肉離れ・骨折など、瞬間的に大きな衝撃を受けた怪我を指します。一方慢性は、肩こりや坐骨神経痛など、長い間蓄積されたダメージで起こる怪我です。急性の怪我の例として例えば、走っている時に、誤って転倒してしまい、足首を捻挫してしまった。対戦相手と接触し、骨を折ってしまった、等です。このような急性の怪我は、正直避けられないケースが多いです。しかし、慢性タイプの場合、長い間痛みや炎症などの症状がある場合があります。
 このような症状を、「いつか治る」「悪化する事はないだろう」という根拠のない考えから、放置してしまう事があります。確かに、放置している症状が全て悪化するわけではありません。むしろ沈静化する場合が多いと思います。しかし、悪化するケースも当然あります。大事な事は、「初期症状が出た時に、対処をする」という事です。軽い・重いは別として、痛み等があれば、それは「症状」であり”普通な状態”ではないのです。それらの症状を経過観察して良いものなのか?一度、スポーツを休むべきなのか?は、専門家の見解が必要となります。「症状がある=何か身体に異常事態が発生している」という考えを持ち、なるべく早期に症状を鎮静化する事が、怪我の悪化を防ぐ事や、症状の内に対処し、”怪我になる事を防ぐ”鍵になります。

2. 症状を疑え

 「痛みや腫れ等の症状がある」という事は、普通な状態(平時)ではありません。症状は身体から発せられる異常信号です。例えば、いつも通りテニスをしていたら、急に肩が痛くなってきた。特に転んだり、誰かとぶつかったわけではない。このような状況になった場合に大事なのが、その痛みが「一時的なものか?潜在的リスクなのか?」を知る事です。例えばこのケースで肩が痛くなる前、「いつもより練習量が増えた」「自分より実力が上の選手と練習し、相手の球が速く重かった」「雨の中、雨水を吸い込んだボールで、練習を続けた」等、テニスではよくあるケースです。しかし、これらのケースは一過性・一時的なもので、このような事が原因で肩の痛みが発生したのであれば、おそらく悪化の可能性は低いです。しかし、打ち方が原因で肩を痛めた場合はどうでしょう?新しいラケットが、自身の身体に合わず、肩に痛みが発生していたらどうでしょう?これらが原因で肩が痛いのであれば、一過性ではなく、潜在的リスクであり、症状が悪化し怪我に繋がる場合が考えられます。症状が出た時、一過性のものか?潜在的な理由なのか?を専門家に判断してもらう事をお勧めします。

3. 痛み等の症状発生原因の追求

 痛みや腫れ等の症状が発生した場合、必ず「原因」があるはずです。症状の原因が特定できれば、対応策を講じる事ができ、症状の悪化を防ぎ、怪我にならないようにする事ができます。しかしながら、全ての症状や怪我の原因が分かる訳ではありません。ただ、新しい症状が発生した時、その直前に起こった「変化」や「通常時・平時ではない事」が原因である場合が多いです。例えば上記の例で挙げた、「自分より実力が上の選手と練習し、相手の球が速く重かった」事で肩に痛みが発生したとしましょう。いつもの練習パートナーより相手のボールが重く速い場合、自身の身体にかかる負担は大きくなります。となれば、肩に痛みが発生した理由は、いつもより身体の負担が大きい相手と練習した事、と推察ができます。その為、肩の痛みが発生している間、レベルの高い相手との練習を避け、フィジカルやテニススキルを向上させた後にまた練習をすれば、症状の悪化や怪我に繋がる事を避けられる可能性が高くなります。コートサーフェスや新しい道具の導入。練習量の増加。試合スケジュールの多忙。等、平時と異なる状況が起こり、何かしらの症状が発生した場合は、平時と異なった事柄が症状発生の原因である可能性が高くなります。その為、何か新しい症状が発生した場合、その直前に何かいつもと違った事や状況があったか?を整理してみて下さい。

4. 経過観察は「ただ放っておく」という意味ではない

 痛み等の症状や、捻挫や肉離れの等の怪我を患った場合、整形外科や接骨院等の医療機関に行くと思います。ドクターや専門家の先生から、治療やリハビリを受ける一方、「経過観察」と言われる事もあります。これは文字通り「経過を見ながら、今後を判断しましょう」という意味です。良くなる事もあれば、残念ながら悪くなる事もあります。平たく言うと、未来は誰にも分からず、医療において「100%」という言葉はありません。
 そんな中、「経過観察」=「大事ではない状態」と理解し、そのままスポーツやトレーニングを続けてしまう選手がいます。また、「経過観察」は、投薬や物理療法等の治療や、リハビリを併合する事で、スポーツをしてもよい、という事もあります。そんな中、治療やリハビリをせず、自身のスポーツのみ行ってしまう選手もいます。あくまで「経過観察」は、「まだ先が分からない状態」と理解し、引き続きドクターや専門家の先生の判断を仰ぎながらスポーツと向き合うべきです。

5. レントゲンやMRIで異常なし

 怪我をしたり、痛みや腫れ等の症状が発生した場合、整形外科に行きます。診察でドクター判断の下、レントゲンやMRI、CT等の画像診断を受け、「特に異常はありません」と言われた経験はないでしょうか?このドクターの「特に異常はありません」を、=「問題はなかった」と思ってしまうケースがあります。特に、MRIやCTで異常が発見されなかった場合、「問題はなかった」と思いがちです。MRIやCTは全てを映し出す、という理解があるのかもしれません。MRIやCTだけではありませんが、そもそも「検査」は、それぞれ発見できる範囲があります。その為、「問題はなかった」という文言を正確に言い換えれば、「MRIとCT検査で発見できる怪我はなかった」という意味です。検査はあくまで検査であり、全てを見極める事はできません。大事な事は、痛み等の症状があれば、必ずその原因がある、という事です。その原因がMRIやCTなどで発見できる類ではなかっただけの事なのです。MRIやCT等の画像診断の結果、例え問題がないと言われても、「怪我をしていない」という保証にはなりません。

6. 自身の身体の癖 怪我のリスクを予め知る

 身体の構造は一人ひとり異なります。フィジカルの強さや、身体的特徴も異なります。例え同じ練習をしても、ある選手は翌日腰を痛め、他のある選手は肩を痛め、また一方他の選手は全くどこも痛くない。これは、一人ひとりの身体の強さや癖が異なる事を意味します。果たして皆様の身体は、テニスを思う存分プレーするに堪えうる身体でしょうか?過去足首を捻挫し、その後、足首の関節が緩い。前屈で、つま先を触れない。猫背。成長期段階。右と左で肩の高さが異なる。病歴や過去の怪我、等など、例を挙げるときりがありませんが、これらは全て怪我の発生リスクを高めます。もちろん、これら怪我の発生リスクをゼロにする事が理想ですが、そもそも左右差が起こりやすい「テニス」というスポーツ性を考えると、怪我の発生リスクを「ゼロ」にする事は困難です。しかし、予め専門家にフィジカルチェックをしてもらう事で、自身の怪我の発生リスクを知る事ができます。怪我の発生リスクを知るという事は、即ち、予め対応策を講じる事ができる、と言えます。
 プロテニスプレーヤーや大学や実業団など、特定の環境下では一年に一回、フィジカルチェックをする場合もありますが、多くのテニスプレーヤーはそのような状況下ではありません。その為、自主的にフィジカルチェックができる専門家に、年一回ペースで自身の身体の癖等、怪我のリスク・フィジカルチェックをしてもらう事をお勧めします。

7. 技術スキルが低いと怪我のリスクが上がる

 怪我の原因は多々ありますが、技術力不足が原因で起こる怪我もあります。テニスの代表的な怪我の一つが「テニス(肘)エルボー」です。テニスエルボーの原因でよく指摘されるのが、オーバーユーズ。所謂「使い過ぎ」です。しかし、プロテニスプレーヤーをはじめ、テニス上級者でテニスエルボーを患う選手は少ないという現実。プロやテニス上級者達の練習や試合量が多いのは言わずもがな。にもかかわらず、怪我の発生確率が高くないという事は、テニスエルボーの発生原因は使い過ぎだけではないのかな?という仮説が立ちます。
 使い過ぎだけでなく、テニス中の肘の負担が多い為、テニスエルボーになる。「肘の負担」=フィジカル不足とも言えますが、一番は打ち方だと思います。肘の負担が少ない打ち方をすれば、テニスエルボーの発生リスクが下がる。要は、技術スキルの問題です。
 技術スキル不足が原因で起こる怪我は、テニス肘だけではありません。例えば、「ボールを追いかけ、転んでしまい、足首を捻挫してしまった」。一見、不可抗力の捻挫かもしれませんが、フットワークの切り返し技術は?ボールを追いかけている時のボディバランスは?ステップインする際の、足の接地は?これらも技術スキルの一つです。これらの技術が仮に充足していれば、捻挫は防げたかもしれません。怪我の原因を、「テニスのやり過ぎ」や「不可抗力の怪我だった」で終わらせるべきではありません。仮にスキル不足が怪我の原因であれば、テニスを休み痛み等の症状が治まっても、怪我の原因自体は残ったままです。怪我の原因を突き止め、それが技術スキルが問題と仮定した場合、コーチやトレーナーと相談し、技術スキルの見直し・向上に取り組みましょう。

8. 道具

 新しいシューズやラケット、ガットやストリングの強度を変えた後、痛み等の症状が出る場合があります。昨今の道具の進化は素晴らしく、それに伴い各メーカーの特色があります。その道具の特色と、自身のフィジカルがマッチしない事で、身体にとって”ダメージ”になってしまう事があります。これは、道具そのものが悪いという事より(劣化している道具は除く)、自身と道具との相性です。一つの目安として、新しい道具に変えた後、何かしらの症状が発生した場合、道具が原因である可能性が高いと仮定し、メーカーや道具に詳しい人に一度相談してみて下さい。
 一番難しいのがガット・ストリングです。ガットの種類とテンションで、その組み合わせは無限大。通常ストリングは、自身のテニススキルに一番フィットするように!!と考えて試行錯誤していると思います。しかし、手首や肘、肩等の怪我の発生原因がストリングスによるものである事も多々あります。出来れば、自分自身のテニスを理解しているストリンガーと話し合いをしながら、自身に合ったガット・テンションを選びましょう。

9. リスクマネジメント

 冒頭「スポーツに怪我は付き物」と述べましたが、怪我が発生するかもしれない可能性を予期し、未然に防ぐ事ができます。というより、未然に防ぐ取り組みを可能な限りしなければいけません。これを「リスクマネジメント」と言います。練習中、ボールが転がってくる事はよくある事で、ボールを踏めば、捻挫など怪我を患うリスクがある事は、容易に予想できます。どのコート・選手関わらず、「互いにボールが転がってきたら、注意喚起し、プレーを止め、ボールをどかそう」とルール作りをする事で、リスクマネジメントができます。
 数あるリスクマネジメントの中、テニスで特に気を付けなければいけない事柄が「天候」です。一つは雨などの悪天候でのプレー。もう一つが夏場の「熱中症リスク」です。オムニコートの普及で、多少の雨でもテニスができるようになりました。しかし、雨で重くなったボールを打ち、足場が悪い中でプレーする事はリスクマネジメントの観点では避けるべきです。熱中症リスクに関しては、しっかりと対策を講じれば高確率で発生を防ぐ事ができます。いや、熱中症は絶対に防がなければいけません。
 リスクマネジメントは個人でできる事と、できない事があります。例えば、試合中、雨などの悪天候になっても、選手の意思では試合を中断できず、大会運営側の判断になります。しかし、例えば、靴がすり減っているにもかかわらず、使用し続けている。風邪気味にも関わらず、練習を行なった。等は個人の判断や取り組みでリスクマネジメントできます。スポーツはあくまで安全・安心の上で成り立たせるものと、選手・サポートスタッフ・運営側が意思統一をするべきです。

10. オーバーユースの明確な基準はない

 テニスを週4・5・6・7回やっています。腰や肩、肘が痛いです。このような場合に挙げられる怪我の原因が「オーバーユース」。いわゆる使い過ぎ症候群です。特に成長期段階であるジュニアの選手達に多くみられます。主な症状は痛みや炎症等。使い過ぎと言われているくらいなので、逆を言えば運動量を抑えれば、症状は沈静化する事が多いです。しかしながら、オーバーユーズの明確な基準はありません。例えば、全く同じ練習メニュー・量をやっても、怪我をする選手・しない選手に分かれます。選手の体の強さや打ち方の技術などは等しくありません。あくまで、「オーバーユーズ」という言葉で終わらさず、各個人の自覚症状から判断をします。
 また、「オーバーユーズ」は怪我名ではありません。沢山練習・試合をして痛み等の症状が出た→オーバーユーズ、という形なので、印象的な要因が強いのです。本質は、オーバーユーズ、やり過ぎのよって引き起こされた症状や怪我が問題なのです。「オーバーユース」という言葉で終わらすことなく、症状の部位に損傷はないのか?ただのやり過ぎが原因なのか?等々見極めてテニスに取り組んでください。

11. やりたい気持ちに負けない OA等が代表

 上記の「オーバーユーズ」もそうですが、痛み等の症状があるにも関わらず、テニスを続け、症状が悪化してしまった。このようなケースの選手がいます。症状があるにもかかわらず、続けてしまう理由の一つが「テニスを休みたくない」という気持ちから生まれます。個人的に、私自身もジュニアからテニスをしている身ですので、テニスを休みたくない気持ちは良く分かります。しかし、怪我の種類、例えば軟骨損傷や変形性疾患など、元の状態に戻らない怪我があります。私のところで一番多い怪我が「変形性膝関節症」です。変形性膝関節症は、整形外科医に診断をしてもらった場合、病態の大小関わらず、「治しましょう」という事にはならず、「悪化を防ぎましょう」「筋力をつけて、付き合っていきましょう」という事になります。なぜなら、一度変形をしてしまうと、元の完璧な状態に戻らないからです。しかし、適切なテニス・運動量やトレーニングをする事で、悪化を防ぐ事は可能です。もう少し強い言葉で言うと、テニスをやりたい気持ちを優先させ、テニスの量を減らす事なく、リハビリ・トレーニングもせず、変形性膝関節症になる以前と同じようにテニスを継続させ、その結果手術になってしまった方を何人も見てきました。自身の状態に即したテニス量に変え、膝関節を守る為のトレーニングを行う事で、結果テニスを長期に渡りプレーする事が可能になり、生涯スポーツになります。「テニスをやりたい気持ち」が強いのであれば、尚の事身体を第一に考え、適切なテニスとの付き合い方をするべきです。

12. テニスをする為の身体を作る

 最後に、テニスをするのであれば、テニスが十分にプレーできる身体を先ず作るべきです!!テニスをする理由は人それぞれですが、「健康維持」「運動の為」という位置付けで、プレーしている人も多いと思います。週1~2回程度、テニススクールでのレッスンや、仲間内でテニスをするのであれば、運動不足解消や健康維持と言えると思います。しかし、週3回以上や、練習時間が2時間とか3時間。試合にも出ます!!となると、もはや健康維持と言う事ではなく、競技スポーツとしてテニスに取り組んでいると言えます。走る・振る・切り返す等のプレーは、日常生活の歩く・座る・立つなどの動きより、はるかに体にかかる負担は大きい。トレーニングはテニスのパフォーマンスアップの為だけに行うものではありません。テニスという過酷なスポーツを行う上で、怪我の予防をする為に自身の身体を作り込む為に行うものでもあります。是非大好きなテニスを、長期に渡り思う存分プレーするために、まずは身体作り!!これを肝に銘じ、テニスをエンジョイしましょう!!

筆者情報

プロテニストレーナー&テニスコーチ

菅尾 祐助

小学生からテニスを始める。高校卒業後渡米し、アスレティックトレーニングを学ぶ。帰国後、菅尾アスレティックトレーニングセンター(S.A.T.C)を設立し、アスリートやスポーツ愛好家の怪我やリハビリ、トレーニング、コンディショニング等をサポート。また、はちおうじ庭球塾(八王子テニススクール)にて、ジュニア育成に従事。

怪我やトレーニング、テニスサポートのご相談はS.A.T.Cまで。
ジュニア育成は、はちおうじ庭球塾まで。
お問い合わせはこちらから。

(株)S.AT.C 代表取締役
テニスメディカルトレーニングラボ(TMTL) 代表
はちおうじ庭球塾 塾長
特定非営利活動法人スポーツライフネットワーク 代表理事
鈴木慶やすらぎクリニック アスレティックトレーナー
境界なきアスリートサポート 共同代表

米国公認アスレティックトレーナー (NATA-ATC)
米国公認ストレングスコンディショニングスペシャリスト (NSCA-CSCS)
インターナショナルテニスパフォーマンス協会公認
テニスパフォーマンススペシャリスト (ITPA-CTPS)
アメリカプロテニス協会公認 プロフェッショナルテニスコーチ
アスレティックトレーニング修士 (MS)

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