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プロのようなサーブを打つ為に必要な筋肉 中臀筋編
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 質の高いサーブを打つ為には、様々な要素が必要です。肩周りの筋力・トスや打点の位置・下半身からの力の使い方・タイミング・バランス等々、そして何より練習量も大事ですね。今回は、「プロのようなサーブを打つ為に必要な筋肉」と題して、中臀筋に注目したいと思います。今回は、

①中殿筋とは。

②テニス、とりわけサーブの時、中臀筋がどのように働いているのか。

③プロテニスプレーヤーはどのように中殿筋を使っているのか。

④皆さま自身の中臀筋がしっかり機能しているのか?

⑤中臀筋のセルフトレーニング

 という形で、進めていきたいと思います。

中殿筋とは?

 え?中臀筋?あまり聞き慣れない筋肉だと思います。まずは、中臀筋の位置を確認したいと思います。
 

 お尻(臀部)の横から後ろにかけて位置している筋肉です。中臀筋の主な仕事は、骨盤の安定や、足(股関節)を外方向(外転)に動かす。また、股関節を内や外に回す(内旋・外旋)動きや、前や後ろ(伸展・屈曲)に動かす事もします。そんな中臀筋がサーブの為にどのような働きをするのか?その為にはまず、中臀筋だけではなく、「筋肉」の役割の説明をする必要があります。

中殿筋の働きについて

 筋肉は力を発揮する時のみ使われるものではなく、他にも様々な役割を担っています。その内の一つが、「身体の動きを止める」です。言い換えれば、「ブレーキ」の役割です。例えば、下り坂を歩いたりジョギングをした時、脛(すね)が疲れたり痛くなったりした経験はないでしょうか。それは無意識に、脛が体重を支え、ブレーキ役を担ってくれているのです。この事を踏まえ、サーブの話に戻ります。サーブの打ち方は千差万別ですが、多くの選手が多かれ少なかれ体重移動を使うと思います。サーブの構えをする時、右利きの選手の場合、左足が前(ベースライン)、右足が後ろに位置します。トスを上げる前、もしくは上げる最中に右足(後ろ足)に体重が乗り、トスを上げる時や打つ時に、右足の体重が左足方向に移動します。その右足から左足に体重が移動する際に、ブレーキ役を担う筋肉の一つが中臀筋です。サーブの打ち方によりますが、体重移動をフルに使う打ち方の選手は、トスを上げた時(トロフィーポーズ)、左のお尻がベースラインを超えるほど、身体をしならせます。まるで弓矢の「弓」ようなポーズ。「身体をしならせます」と書きましたが、しならせる事が出来る=中臀筋で体重を止める事が出来、それをしならせる事で、ブレーキ役だけでなく、サーブに対し、しならせた身体をサーブの威力に変えています。身体の使い方としてはかなりの上級スキルです。中殿筋がしっかり使えないと、体重を止める事が出来ず、サーブの時身体が前に倒れてしまったり、左手が下がる原因になります。身体のバランスが悪くもなるでしょう。中臀筋のみで支えているわけではありませんが、この動きに関して中臀筋の役割は多いといえます。

プロの写真を見て中臀筋をフォーカス

 多くのプロ選手達が、中殿筋をうまく使っている中で、象徴的な写真を2つ。私の中で、プロの中でもとりわけワウリンカとアンディ・ロディックは、サーブで中臀筋を活用している選手です。
 

 

 
 上記の写真、2枚とも真横から撮られた写真ではありませんが、トロフィーポーズ時、明からに左のお尻(臀部)の外側がベースラインより前に位置しています。臀部の外側=中臀筋です。トスアップの際に、右足から左足に移動した体重を中臀筋が止め(ブレーキ)、その反動を弓のようにしならせ、結果スイングスピードに反映させています。私は、彼らの素晴らしいサーブの秘訣の一つが、強い中臀筋とバランス感覚であると考えています。ちなみに今回のテーマはサーブですが、ストロークでも中臀筋の占める役割は大きいです。とりわけ片手バックハンドが分かりやすいので、こちらで説明したいと思います。これまたワウリンカと、私の大好きなフェデラーです。サーブもそうですが、バックハンドも含め、私の中でワウリンカはプロの中でも本当に臀部を強くうまく使っている選手だと思っています。
 

 
 サーブとは逆で、右の中臀筋を使っている写真です。左足からの右足に体重を移動させ、右中臀筋で身体が流れないようにブレーキ。そして反動力として力に変え、ラケットヘッドのしなりを含めた、スイング力に反映させています。本当にほれぼれする写真です。このように、サーブだけでなくストロークでも中臀筋は使われ、プロテニスプレーヤーをはじめ、テニス上級者達は中臀筋をうまく・強く使っています。特に、横の体重移動(前後運動ではなく)の時、中臀筋はとても重要になります。

中殿筋をセルフチェック

 サーブをはじめ、テニスで中臀筋がとても重要とご理解いただけたと思います。それでは、皆様の中臀筋が実際にご自身の体重を止める事が出来ているのか?まずは、それをチェックしていきましょう。まずは、横の体重移動が起こる際、中臀筋がしっかり機能しているかどうかです。腕を腰に位置させ、そのまま片足立ちをしてみて下さい。これで、中臀筋がブレーキ役としてしっかり機能しているか分かります。

機能している中臀筋

 臀部を中心に、赤線を引いています。紫でマークしているところが中殿筋です。片足軸、この場合左から右に体重が移動している時、軸が真っすぐ。これは即ち、中臀筋で支えられている事を意味します。

十分に機能していない場合 パターン①

 機能している写真と比べると、右臀部が右側方向に流れています。また、上半身は左に流れています。中臀筋でしっかり支えきれていない事を意味しています。

十分に機能していない場合 パターン②

 
 これは一見、右臀部が右に流れおらず、正常に見えますが、上半身が右に流れています。このような場合、上半身や体幹の筋力が弱いと思われるかもしれませんが、中臀筋で支えられておらず、上半身を右に倒すことでバランスを取っている状態です。なので、原因は右中臀筋が十分に機能していない事を意味します。

他の方法

 
 上記の写真の様に、軸足側に真っすぐの物を置きます。写真ではストレッチポールを置いていますが、壁等でも大丈夫です。中臀筋がしっかりと機能していれば、片足(上記の写真でいうと左足)を上げても、軸足側の臀部や上半身が外方向に流れません。上記の写真で言えば、ストレッチポールが倒れていません。壁を横にしてやる場合、臀部や上半身が流れ中臀筋が十分に機能していない場合、片足を上げる事ができません。このような方法で、まずは中臀筋のセルフチェックをしてみて下さい。

中殿筋トレーニング

 最後に中臀筋のトレーニングです。先述した通り、中臀筋の主な機能の一つが足(股関節)を外方向に動かす事です。その為、横向きになり、足を上に上げます。ただ、中臀筋は臀部の横から後ろ方向に位置しているので、上げる足は真っすぐより、やや後ろ方向に上げます。

 


 中臀筋エクササイズで難しい点が、うまく中臀筋を使えない(筋収縮ができない)事です。足を上げた時、お尻の横がしっかり使えているか、意識してみて下さい。足をやや後ろ方向に上げるので、上半身が前に倒れてしまうケースがあります。体幹部は真っすぐのまま、足をやや後ろ方向に上げて下さい。

①左右の中臀筋を10~15回を目安に3セット

②足を上げる時息を吐く

③腹圧(腹筋を意識)をしっかり使い、体幹部を安定させる

④お尻の外側(中臀筋の場所)を意識して行う

 上記の点を注意しながら、トレーニングを行ってください。もし、足を上げるだけのトレーニングでは負荷が弱い場合、チューブバンド等を使用し、負荷を上げましょう。
 


 サーブを意識した中臀筋強化を考えると、立った姿勢でのトレーニングも必要です。横向きで寝た場合は、中臀筋の力の発揮。立った姿勢でのトレーニングでは、軸足として、軸をしっかり支えられる為のトレーニングとして行います。
 

 
 上記の写真の場合、左の中臀筋は力の発揮(筋収縮)として使われ、右の中臀筋は、軸を安定させる為の筋肉として使っています。この際、上半身の軸ブレが起きないように注意して下さい。
 

 最後のトレーニングは、臀部の外側=中臀筋部に直接チューブをセットし、サーブのモーションを行います。この場合、臀部が外に流れている訳ではなく、体重移動を右足(後ろ足)から左足(前足)にした際、しっかりと中臀筋で身体を支え、弓のようにしならせる、イメージトレーニングです。中臀筋に抵抗を与えることで、実際のサーブで中臀筋を意識して使えるようにします。

まとめ

 冒頭でも先述したように、”プロのようなサーブ”や”質の高いサーブ”を打つ為の一つの要因として、中臀筋は必ず必要になります。全選手が、トロフィーポーズ時に臀部の外側をベースラインより前に出す訳ではありませんが、体重移動が起こる=中臀筋は多かれ少なかれ使われる事になります。そんな大事な中臀筋ですが、意図的に日々鍛えていない選手も多いと思います。その為、サーブはもちろんの事、テニスやる上で横の体重移動は頻繁に起こる事なので、中臀筋を含め、臀部のトレーニングや使い方は非常に重要になります。是非、日々トレーニングメニューに加え、中臀筋を意識してサーブの練習もしてください!!

筆者情報

プロテニストレーナー&テニスコーチ

菅尾 祐助

小学生からテニスを始める。高校卒業後渡米し、アスレティックトレーニングを学ぶ。帰国後、菅尾アスレティックトレーニングセンター(S.A.T.C)を設立し、アスリートやスポーツ愛好家の怪我やリハビリ、トレーニング、コンディショニング等をサポート。また、はちおうじ庭球塾(八王子テニススクール)にて、ジュニア育成に従事。

怪我やトレーニング、テニスサポートのご相談はS.A.T.Cまで。
ジュニア育成は、はちおうじ庭球塾まで。
お問い合わせはこちらから。

(株)S.AT.C 代表取締役
テニスメディカルトレーニングラボ(TMTL) 代表
はちおうじ庭球塾 塾長
特定非営利活動法人スポーツライフネットワーク 代表理事
鈴木慶やすらぎクリニック アスレティックトレーナー
境界なきアスリートサポート 共同代表

米国公認アスレティックトレーナー (NATA-ATC)
米国公認ストレングスコンディショニングスペシャリスト (NSCA-CSCS)
インターナショナルテニスパフォーマンス協会公認
テニスパフォーマンススペシャリスト (ITPA-CTPS)
アメリカプロテニス協会公認 プロフェッショナルテニスコーチ
アスレティックトレーニング修士 (MS)

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